冠光寺流柔術本部 | ||
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詩 集 《友 よ》 遠い地平線が消えて、 夜のホールに明かりがともる時、 プログラムに記(しる)された曲のすべては、 彼が編み出した珠玉の作品を収めた宝箱です。 満天の星をいただく、 高原から銀河の流れを見渡せば、ビロード タッチのチェロ、 エメラルド・ブルーの音色も聞こえてくる、 弦の響きの、なんと心に染み渡ることでしょうか。 光と影の境に消えていった、得がたい仲間たちの笑顔が浮かんでまいります。 その友は、時折ふっ(・・)と旅に出るのでした。 彼の体 四分の一に流れるラテンの血に誘(いざな)われたのか、 だれにも告げず、漆黒(しっこく)の雲の上をひたすら西へ向かったのでした。 友よ、君はもう夜間飛行を終えて、パリに降り立ったのだろうか。 パリ リュクサンブール公園にて 友よ、人は泣きながら生まれてくる。 けれど成長し、甘酸(あまず)っぱい恋をして水色と灰色をくり返すものだ。 やがて、水が流れ下るように、微笑みながら大海原へ還っていく。君に「恋はみずいろ」を贈ろう。 パリ郊外 ヴェルサイユにて 友よ、ギャンブルと女性が大好きなパリっ子の君が、バラの花束を捧げた女(ひと)はバカンスに出かけてしまった。 時に天(あめ)なる瞳はあまりに熱く輝き、時にその黄金の顔はしばしば曇る。 王子のカツラを被り、剣を差して舞う古風な君に「薔薇色のメヌエット」を贈ろう。 南イタリア ソレントにて 友よ、地中海に出ると、水面からかすかな香りが緑の風に乗って漂(ただよ)ってくる。 オリンピアの柔らかな細い一枝(ひとえだ)を手折り(たおり)て、君に「オリーブの首飾り」を贈ろう。 晴れ渡ったエーゲ海にて 友よ、クレタ島の純白の家々は紺碧の海に映えて輝く。 海の青、空の蒼(あお)の溶けあった宝石箱から、君に「エーゲ海の真珠」を贈ろう。 ローマ郊外 エステ荘にて 友よ、朝霧に包まれて、 薄明(うすあかり)の庭で二つの白い大理石像に向き合う。 背中の翼が朝露に光るとき、虹色のオーラを放っているようだ。 セラフィムとケルビムに誘(いざな)われ、その柔らかな翼の憩うところとなる。 君に「二人の天使」を贈ろう。 古都アッシジにて 友よ、歓びは玉杯(ぎょくはい)にあふれ出す。 満ちた杯(さかづき)がまわってきたなら、昨日までの哀しみは天空へとはじかせよう。 鏡に向かい、美しき手で頬をぬぐう君に、「涙のトッカータ」を贈ろう。 エルサレム 岩のドームにて 友よ、麗(うるわ)しいベルキス女王が、エルサレムにソロモン王を訪れるとき、人々は炎に酔ってつどい来(きた)る。 抱(いだ)き合え、幾百万の人びとよ、同胞たちよ。 木陰の森はテンペになり、かの谷はエリジウムになった。 君に「シバの女王」を贈ろう。 ル・アーブルにて 友よ、ノルマンディーに降る雨は青く流れている。 君を7月の雨に例えようか。 いや、流れ去る雨は再びめぐり逢った二人にそぐわない。 君に「シェルブールの雨傘」を贈ろう。 ニース ヨット・ハーバーにて 友よ、君の永遠の夏は色あせたりしない。 ある朝早く、雲のあい間からもれる光が、やがて一点の陰りもない快晴の太陽へ。 勝ち誇った輝きで君の顔を照らすのだ。君に「太陽がいっぱい」を贈ろう。 アメリカ パイン・アイランドにて 友よ、泥沼にはまった愛と憎しみの再来だ。 青年の自分を、慰めと嘲り(あざけり)の両天秤に掛けながら、避暑地の恋が蘇る。 君に「夏の日の恋」を贈ろう。 フロリダ オーランドにて 友よ、求めてかなわなかったことの多さにため息をつき、時を無駄にしたと古い嘆きを蒸し返す。 人はそれぞれ一つだけ影を持っている。 愛の哀しみが息を吹き返し、消えていった幾多の面影を偲ぶ。 今、人生の地平に立ち、失った大事なものと手に入れた小さなものの二重唱として、愛に生きたロック・シンガーの魂の叫びを聴くのだ。 君に「ザ・ローズ」を贈ろう。 再びフランス モンフェルメイユにて 友よ、運にも世間にも見放され、ひとり落ちぶれた身の上を嘆き、天に向かってむなしく叫ぶ。 けれども、君から受けた至上の愛を思えば、失ったものは全て取り戻され、悲しみさえサファイアのように美しく輝くのだ。 君に「夢やぶれて」を贈ろう。 イタリア シチリア島にて 友よ、過ぎ去った人生の回想は全ての人に許された過去への旅。 心やさしい回想、それは、丁寧にその時代を二度生きて、時を超えた宝物を手にして戻れば、未来への旅の糧(かて)となるのだ。 君に「ニュー・シネマ・パラダイス」を贈ろう。 南米 ブエノス・アイレスにて 友よ、晴れやかな朝、神々しい陽の光が山の頂をくすぐり、 黄金の顔が緑の草原にくちづけしたと思うと、天の錬金術で赤い荒れ地を豊饒の大地に変えていく。 そして迎える麗しの春、実りの秋。 人は気まぐれな砂時計から生命(いのち)を与え続けられ、最後の瞬間に向かって走り続けるのだ。 この旅の結びとして、そして永遠(とわ)の友情の証(あかし)として、君に「情熱大陸」を贈ろう。 (14/10/1 北 十 字) |
詩 集 《星 よ》 美しくまたたく星の光に、ふっと立ち止まり天を見上げていると、吐く息の白さも忘れて、遙か久遠の時を飛び続けた 光のメッセージに心を開いています。 詩集「星よ」 〜銀河航空 ギャラクシー・エアライン「星座線」の窓より〜 |
夕映えに菩提樹のシルエットが浮かび、 無垢(むく)の光の粒が大地に溶け込んでいく時、 ミレーの夕暮れが消えて、ダークブルーの帳(とばり)が降りると、 そこは漆黒の宮殿、はてしなく広がる星の舞台の登場です。 音にならないかすかな気配で、星座のワルツが繰り広げられるのです。 そう、今宵も星の大舞踏会の序曲が流れてきました。 一等星たちにエスコートされて、小さく輝く星々が入場してまいります。 それは、季節毎にこの星の国の社交界から誘(いざな)われて、美しく青いデビュタントが、 ためらいながらも爽やかなステップを運ぶのです。 初々しい表情が鮮やかなドレスに映えてきらめき、飽きることのない夜通しの円舞がひたすら続いてゆくのです。 星よ、あなたの光は、いつ故郷(ふるさと)を旅立ったのでしょうか。 オリオン座アルファ星ベテルギウスのアルテミス曰く 星よ、狩りの名人オリオンは、射貫(いぬ)かれん。 彼とは知らず放った月と狩りの女神アルテミスの矢で。 彼の恋人たる女神の悲しみはいかばかりか。 全てを見とどけし神々の王ゼウス、不憫(ふびん)に涙してオリオンを天に上げん。 されば、毎夜、アルテミスは銀色に輝く月の馬車に乗り、愛するオリオンのため 奏でたる夜想曲は、 真珠の粒となりて 天の川(あまのがわ)に流れん。 おうし座アルファ星アルデバランのプレアデス曰く 星よ、見目麗(みめうるわ)しきフェニキア王女エウロパは海辺で白い花摘みぬ。 アルプスの雪のごとき白い牡牛(おうし) 現れ出でん。 見とれるエウロパ、真白き牡牛に近づき、ほほを寄せうちとけぬ。 その美しき牡牛はゼウスの化身(けしん)。 白き二人はみずいろのクレタ、クノッソス宮殿にて、愛を誓わん。 こいぬ座アルファ星プロキオンのメランポス曰く 星よ、鹿を追い野山を駆け巡りたる狩の名人アクタイオン。 運命の日、森で迷いしアクタイオン。 途方にくれ、薄明かりをたどりて向かいし黒い森の奥深く。 おりしも、月と狩の女神アルテミスとニンフたちは水浴のさなかで赤裸。 アルテミスの逆鱗(げきりん)に触れ、たちまち鹿の姿に変えられしアクタイオン。 ああ、愛犬メランポスたちの餌食(えじき)になりぬ。 知らぬ犬たちは主(あるじ)を探し求め、求め続けて幾歳月。 天に上げられし今もなお、涙を浮かべ待ちわびぬ。 おおいぬ座アルファ星シリウスのケファルス曰く 星よ、あまねく天の広がりの中、最たる輝きシリウスよ。 暴れるナイルの時期を告げ、昇り来る、焼き焦がす星シリウスよ! 今は今、8年半前のいまのこと。 その強き光は連れの星をも焼きつくし、ものの哀(あわ)れのよすがたらん。 しし座 アルファ星レグルスのリオン曰く 星よ、怪物ティフォンの子、ネメアの森の大ライオン、旅人を襲いて困らせん。 命(めい)を受けしヘラクレス、退治せんと弓、剣(つるぎ)、棍棒(こんぼう)をもちていどみかかるも 歯がたたず。 追い詰められしヘラクレス、三日三晩、渾身(こんしん)の力をこめて首絞め続けん。 ライオンの涙 流れ続け、シェルブールにもあまたの流星降り注ぎたり。 いっかくじゅう座 アルファ星のユニコーン曰く 星よ、美しきタペストリーに織り込まれし一角獣、貴婦人のひざに乗りたがらん。 五感に加うる「我が唯(ただ)一つの望み」とは? オリーブ色の首飾りではあらざらん。 アストラルとの同調がため、そのユニコーン。 バラ色の雲に乗り、ヒマラヤの頂に住まいおる。 俊足の脚(あし)にて貴婦人のもとへ駆けゆかん。 みなみじゅうじ座 アルファ星アクルックスのサザンクロス曰く 星よ、あなたは思い描いた生涯を送りたもうや。 やがてくる、誕生のとき、希望を覚えん。 星の生まれし役目は神のごとし。 神の意思を持ちて世界をつくりぬ。 星よ、あなたは育ちたもうや。 やがてくる、希望との乖離(かいり)、運命を覚えん。 星の放ちたる役目は神のごとし。 夢のもくずは、いや増して、愛の波動は長くのびゆく。 星よ、あなたは成し遂げたもうや。 やがてくる、終焉(しゅうえん)のとき、感慨を覚えん。 星の果たせし役目は神のごとし。 生命(いのち)を育み、惜しみないエナジーを授く。 星よ、あなたも夢見たもうや。 やがてくる、爆発の日、閃光に輝く姿を覚えん。 星の夢見し役目は神のごとし。 あまねく銀河の魂とならん。 わし座アルファ星アルタイルのガニメーデス曰く 星よ、大神ゼウスは黒い鷲に変身せん。 イダ山(さん)の麓(ふもと)、羊飼いでトロイの美少年ガニメーデス。 その美しさは黄金の輝き。 黒い鷲、地上に舞い降りて彼をさらい、天上へおきて神酒を酌(く)ませぬ。 天上においてさえ、おお、その美しさは、ラピスラズリの砂にちりばめられた真珠の光沢の如し。 ふたご座アルファ星ポルックスのカストル曰く 星よ、スパルタ王妃レダのもと、鷲に追われし白鳥が一羽逃れ来ぬ。 やがてレダの産み落とせし二つの卵、双子の英雄兄弟となりて武勇の誉(ほま)れとどろきぬ。 類(たぐい)まれなる兄弟愛に大神ゼウスも惚れ込まん。 離るることなき兄弟は、双子もろとも天に上げられ昔日(せきじつ)のごとく再び輝きぬ。 エリダヌス座アルファ星アナルケルのアカマル曰く 星よ、太陽の神アポロンの息子パエトーン、父の乗る日輪の馬車に憧(あこが)れぬ。 ある日、父から借りし日輪のシャリオ、でたらめな手綱さばきにより暴走せしめん。 馬車の近づきたる地上は炎暑の夏と化す。 全能の神ゼウスの放ちたる、雷(いかづち)によりて、パエトーン、天より落ち、ああ、エリダヌス川の 流れに消え去らん。 みなみのうお座アルファ星フォーマルハウトのラカーユ曰く 星よ、大天使ガブリエル、みなみのうお座の守護神たり。 「神は我が力」の名によるセラフィムよ。 イスラム聖典を預言者に授け、マリアに受胎告知を行い、神の座への案内役としてエノタ、ダニエルを導きぬ。 下りて18世紀、啓示を受けしガブリエル、音楽の力にて布教せんとあらわれぬ。 共に歩む、誇り高き民族に栄光あれ。 いて座 エプシロン星のカウス・アウストラリス・ルクパト曰く 星よ、半人半馬のケンタウルス、藍色の弓を引く。 キリキリッと引き絞りたる虹色の矢先。的はサソリの心臓、赤い星アンタ-レス。 この星座の旅の結び、そして星の輪廻(りんね)の証(あかし)として、 銀河系の中心部より聞こえし光のコラール、巨大なる渦を巻き、異邦人の谷にこだまする。 星明りの空に薄いベールがかかるように、東の山際から白い夜明けの霧がわき上がってまいります。 絢爛(けんらん)たる舞踏会も再会を契(ちぎ)る頃合(ころあい)となりました。 さらば、今宵の星々よ。 (14/09/20 北 十 字) |
即興詩 《仲秋の浮き月》 秋風の思いはそよぐも、名月昇りて、燈明(トウミョウ)天に架からん。 今宵の舞台は天の川の歌劇にして、高らかにプリマ歌い輝く。 秋風の思いは伴奏となり、名月進みて、燈明天を照らさん。 今宵の舞台に淡き天の川の間奏曲流れて、麗しの旋律に涙す。 秋風の思いは最高潮となり、名月南中して、燈明真昼のまばゆさぞ。 今宵の舞台に天の川踊り揺れ、雄々しき終曲轟きぬ。 明晩の再演ちぎりて、燈明西の山の端に隠れたり。 (14/09/08 北 十 字) |
《夏色の調べ》 ああコバルトブルーの瞳よ、波穏やかなエーゲ海はあなたの瞳。 ああ透き通るうなじよ、満ちたる月、 水面を滑りて連なれば、弧を描き真珠の光は揺れて延びゆく。 《天地の恋》 ああ白き炎の雲湧く大地より、薄きみずいろの空へ恋文届く。 赤とんぼはクーラント舞い踊り、空はサファイアの微笑み。 ああ慈雨となりて空の涙落つ。 やがて立ち上がる八色のアークよ、天地の愛、ここに溢れん。 《夕焼けの妖精》 ああオレンジの海に染まる唇よ、夕焼けのアドリア海はあなたの唇。 ああ、風にそよぐ髪のカールよ、 波打つ 柔らかきハーモニー、 光絡みて優しきシルエットに沈まん。 ヴィヴァルディ/フルート協奏曲変ホ長調「海の嵐」を聴いてください。 (14/08/22 北 十 字) |
「愛の波動」 遥か彼方の辺境より、無限に届く波動あり 対峙したる鏡の自我、写す魂の進化の加速度極大化せり 物事総て輪郭より始めてはならじ、そのもの、その面、その波動を愛すべし されば、グレンツェ融け合いて、我彼の区別なからん 勇気持て、銀河の交差(クロス)に向かいなば、空(くう)となりて色なきエスパス広がりぬ 雲わき 、雲かかるも、晴れ渡りたる愛、何物をも貫かん 調和の視界、即ち波動の虹かかりて光の嵐収まりぬ 遥か彼方へ伸び行く波動、辺境に至りて、即ち無限の愛に変容す (チャイコフスキー/交響曲第5番第4楽章の精華) (14/08/19 北 十 字) |
詩 <<現 世>> (うつしよ) by 北 十 字 |
現 世(うつしよ) 朝霧に包まれし教会の鐘楼、 忙として浮かぶ時、白き冷気の肌触り首飾りをさすりぬ 南東に明け星ありて 朝焼けに輝く 上りつつ薄れ 不意に白日の光の海に隠れぬ 美の女神宿る星 謎多き雲中の大地 懐かしく暁の空に輝く 魂の浄化ぞ、果てしなき転生 更なる精清進化の星(テラ) 森羅万象の根源たる愛 時空にあまねく満ち満ちて 借り物の身体ありがたく 箱庭の宇宙にてこの生涯を貫かん 〜J.S.Bachの「音楽の捧げもの」を聴きながら〜 (14/08/12 北 十 字) |
詩 <<三 世>> (さんぜ) by 北 十 字 |
三 世(さんぜ) 前世 汝、あの日のことを覚えたるや 灼熱の陽光、凍てつく風雪 汝、あの愛を覚えたるや すべてを与えられし万象、すべてを捧げし万象 汝、あの生涯を覚えたるや 生まれる序曲、死にゆく終曲 現世 汝、昨日のことに満ちたりたるや 大きな失敗、小さな成功に憂う 汝、今日のことを受け入れたるや 嫌う人々、慕う人々に憂う 汝、明日のことを見据えたるや 他人による生き方、自分による生き様に憂う 来世 汝、遠き星より来たるその理(ことわり)知りたるや 成すべきこと果たして聴く終楽章 汝、遠き時代より来たるその時知りたるや 時は空(うつ)ろにして、その長さは見せかけなり 汝、来世こそ遠き星、遠き時代の朝に立つべし 高みにおいて全空間を合気し、次の世界の幕開きぬ ※この詩は《サミュエル・バーバーの弦楽のためのアダージョ》を聴きながらお読みください (14/08/11 北 十 字) |