冠光寺流柔術本部
私は保江邦夫先生から何を得たか
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  保江邦夫先生から教えていただいたこと
 ―私にとって最初の一歩は何だったか―

              浜口隆之


 現在,神戸道場では稽古中に「ここで合気をかけます」「合気がかかってないよ」などの言葉が普通に使われています。
 新入門者にはわけがわからないと思いますが,長くやってきているみなさんにとっては「合気をかける」は日常語です。
 隔世の感を禁じえません。

 私は「合気」の存在と,合気道と合気の違いは以前から知っていました。
 合気道は,手順の決まった動きにより相手を崩す技であり,技を真似ることができます。
 しかし合気は,ふれた瞬間に相手を崩す技であり,真似ることはできません。
 (もし真似ようとすれば相手にわざと倒れてもらうしかない)
 習得は不可能だと思いました。
 私が合気習得をあきらめてから冠光寺流に入門するまでに,道着を着て汗を流すこともなく,10数年がすぎていました。

 私は保江先生を物理学者としては存じ上げていましたが,武術家だったとは知らず,2008年に『武道vs物理学』を読んで衝撃を受け,知人の紹介で7月に野山道場を訪ねました。
 その日は炭粉さんと保江先生のスパーリングのちょうど一週間後だったようで,保江先生からくわしく話を聞いたことを覚えています。
 その頃の保江先生は教えを「内面の変化」「愛」「下僕(しもべ)」という言葉で述べておられました。
 「内面の変化」「愛」「下僕」は,自分の内側(まさに内面ですね)の操作です。
 その操作自体は(心でそう思うことは)は誰にでもすぐに出来ます。
 出来ますが,出来たつもりになることが出来るだけであって,出来ているのかどうかは客観的にはわからない。
 仮に出来たとしても,それによって相手に技がかかるメカニズムが不明である。(註1)
 私にはそう思えました。
 きっと,もっと確実な何かがあるに違いない。

 合気を“かける”という表現からもわかるように,合気というものについて私は,(相手に対し何らかの働きかけを行う)能動的な行為を期待していました。
 「合気をかけるための能動的で具体的な方法」を探し求めていたのです。
 しかし道場では内面技ばかりでした。
 2008年の12月頃,稽古後に岡山駅まで送っていただく車の中で,私は思いきって保江先生に尋ねました。
 「今,先生は,内面変化や下僕とおっしゃっていますが,わかりはじめた初期の頃はどんなやり方をしておられたのですか」
 それに対する先生のお答えは,
 「ああ,その頃は,魂を重ねる,というのをやっていたなあ」というものでした。
 タマシイを重ねる?
 すぐには意味はわかりませんでしたが,少なくとも,内に向く操作ではなく,外に向く(相手に向く)操作であることはわかりました。
 初めて得た,能動的なヒントでした。
 ちなみに,魂を重ねる,とは,相手の魂に自分の魂を重ねる,ということでした。
 ここで,魂のあり場所はどこかということが重要になるのですが,それがエスタニスラウ神父のお話につながるのです。
 私はこれを聞いたおかげで,なぜ道場では(保江先生を含め)みなさんが「上目づかい」で技を行うのか,そのカラクリが理解できました。
 これが(その後の長い道のりの)最初の一歩でした。

 第2の一歩は翌年(2009年)の春でした。
 野山道場で保江先生から
 「浜口さん,実践的なアイキはこうやるんですよ」
 とかけていただいた(吹っ飛ばされた)技,および,その数週あとに岡山駅近くのアザレという店で飲みながら教えていただいたその技のやり方です。
 この技は内面操作と身体操作の中間的なものでした。(註2)
 なんと,合気をかけるための能動的かつ具体的な方法がちゃんとあったのです。

 これら以外にも,保江先生が折に触れておっしゃる
 「佐川先生の技はこんなふうだった」
 「佐川先生はこんなことをおっしゃっていた」
 という証言は私にとって極めて重要なものでした。
 まあ(メソッドがある程度構築できた)今だからこそ,あらためてそれらの重要性がよくわかるわけですが。

 このように,私が保江先生から教えていただいたことは,冠光寺流の正統の教えというよりは,個人的に特別に教えてくださったことが多かったと思います。
 2008年から2009年頃というのがその時期でした。
 その後,神戸稽古会・神戸道場の活動の中で,合気技法は予想を超えて進歩しました。
 しかしそのルーツは間違いなく保江邦夫先生の教えにあり,保江先生への感謝の気持ちは失せることはありません。
 ありがとうございました。

  2017年3月9日

 (註1)保江先生のドグマは徹底して「内面変化が相手に影響を及ぼす」というものであり、それを説明するための理論が「唯心論物理学」や「素領域理論」であった。

 (註2)この技については、神戸道場HPの「『透明な力』を読む」参照。 (編者註 - 「『透明な力』を読む」その6)


 浜口さんは現在、冠光寺流神戸道場長を努められ、また同道場の公式サイトを運営されています。