冠光寺流柔術本部
私は保江邦夫先生から何を得たか
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   『動くな、何もするな!』

                          太田 宏明
 2010年6月入門の太田です。

 この約6年半の間に道場で保江先生からいただいた注意、叱声は山ほどありますが、

 その中の一つ、最近まで意味を図りかねていたことを書きます。


 入門した頃は毎回の稽古で「冠光寺流柔術初伝乃手」をやっていました。

 これは比較的緩やかな動作が多く、相手を一発で倒すのではなく、自分が体現する何か(註)

 によって相手の身体がどう反応して崩れるかを探るという意味合いが大きかったと思います。


 (註)動作、感情、雰囲気、他の相手に強く影響を与える一切をただ"何か"とまとめましたが、
 保江先生ご自身の言葉では"愛"に集約されます。



 入門して1年ほど経った頃のある日、私が先輩である白川さんを相手に「立ち正面打ち」の

 取り側をやっているところへ先生が寄って来られ、「待て」をかけられました。

 白川さんの右手正面打ちを私が両腕で受け止め、支えたままで停まっています。

 (普通ならここから取りの私が前に出て攻めに入るところ・・・)

 先生はそのまま白川さんの背後に回り、後ろから彼の肩が後退しないように支えつつ「太田さん、動くな、

 何もするな!」と仰有ったのです。

 「何もしないなんて、じゃいったいどうするんだよ?!」とそのときの私は思いました。

 それから更に何年も、そのときの情景を思い出す度に「よく解らないが何か意味があるはず

 ・・・」と思いながら漫然と過ごしていました。


 ところが今年になって、ある先輩の方と話した折、その方の「接触する相手の動きを追い越しては

 いけない」という言葉を聞いて疑問が突然氷解したと思いました。

 つまり私には元々組んだ相手を力押しする癖がある。

 力押しすれば押される側に抵抗モメントを起動させ、押される側によるコントロールを容易にすると

 いうことだと思います。

 身体は「前に出る」という意識を持つだけで腰や胸が微妙に動きます。

 それを更に相手との接触部分(この場合は腕)で押そうとするともう力が過剰に働いてしまう。

 『初伝乃手』の立ち正面打ち、巻き捕り、首絞めという技には初心者向けにこの、相手に対しての

 過度の力の戒めが要素として組まれていると感じます。

 もちろんほとんどの方はそういう初歩段階をとっくに通過して、同じ技により高度な工夫や心境を

 進まれているでしょう。

 しかし私にとって保江先生によって得られたもの、学んだことはこの”過度の力に対する戒め”が

 この先もずっと思い出に残るでしょう。


                                   (2017/3/7)